四川省宜賓(イービン)とは?
四川料理や四川文化に興味をお持ちの方であれば、「ああ、あの宜賓ね」となるかもしれないでしょうし、成都って四川省にあるの?なんて方であれば、もちろん「宜賓ってなんですか?」となるでしょう。有名なのだか無名なのだかよくわかりませんが。
私は現在、その宜賓に暮らしております。
中国西南部に位置する四川省の、その南端にある中級都市、宜賓。東のすぐそこには重慶があり、南のすぐそこには雲南省があり、省都成都からおよそ200㎞ほど南下したところにあります。有名だか無名だか、といいながら、かくいう私も移住当初は後者の方でありました。
宜賓といえば、酒鬼の私からすればまず五粮液。それから、成都のあちこちで味わえる宜賓燃麺。もうそれくらいしか印象がなく、正直申せば位置すらもおぼろげなありさまでした。
なんとなくいいところの宜賓
そんな私がこの都市に暮らすことになったのはもう、奇縁としかいいようがありません。
引っ越し前に中国の友人たちに「どんなところ?」とリサーチすれば、「なかなかいいところだよ」と、そんな答えが次々と返ってきます。ところが、「じゃあ何があるの?」と重ねて訊いてみれば、「…とにかくまあ、いいところだ」となんだか頼りない。
しかしながら、ここに暮らしてみて1カ月2カ月経ち。私にはこの都市がそんな頼りなさげなふうで、けれどもそれでいて多くのひとに良いイメージを持たれる訳がなんとなくわかったような気がしたのでした。
「とってもいい人なんだけど恋人には…」
褒め言葉なんだか貶し言葉なんだか怪しい気もしますが、私の宜賓に対する現在の印象はまさにこれ。恋人にはなかなか選ばれないけれども、とてもとてもいい人、そんな宜賓の魅力を、これからお伝えすることができましたらなによりです。
本日はまず、初めにこれだけは、という宜賓情報をご紹介することにしましょう。
宜賓の基本情報
宜賓市といっても日本の「市」とは異なりとても広く、私もまだ、そのほとんどの地域を詳しく知りません。一般にこちら宜賓市で「宜賓」と呼ばれるのは市中心部。
古くに城が築かれ、政治、文化、経済の中心として栄えた、“三江”合流地点周辺がそれにあたります。
では、三江とは?
そう、これこそがこの都市が自慢すべき第一のポイントなのです。
地図を見れば、一目瞭然。これが三江の合流です。
西から南側を流れ東に下るのが、青海省高峰の清らかな水源を故郷にする、金沙江。また北側を流れ東に下りこの金沙江に合流するのが、世界遺産の都江堰や楽山などを旅し遥々ここまで流れてきた、岷江。
この二筋の巨大な川が交わり、かの有名な大河、長江がここより始まるのです。
「万里長江第一城」という呼び名を持つ宜賓
こちらの写真は金沙江と岷江に挟まれた老城区の先端より長江の始まりを眺めたものですが、この感慨はここに立った者にしかわかるまい、それほどまでに迫力のある光景です。
源流からの長さ世界第3位を誇る長江ですが、長江を名乗りだすのは実はここから。ここより重慶を経て、荊州、武漢、南京、そして上海から大海へ。その距離およそ2880㎞。気の遠くなるような旅路です。
こちらは長江最初の橋、その名も長江第一大橋です。
ここを昼間に渡れば、深々とした緑に挟まれた長江を片側に、そして発展目覚ましい都市風景から流れ来る生まれたての長江をまた片側に。夜にここを通れば、色鮮やかな夜景に思わず目を奪われ。
100回200回と数え切れないほどここを往復しようとも、未だ見飽きない景観に囲まれて架かる、なんともぜいたくな大橋です。
これらの風景をご覧になればおわかりだと思いますが、宜賓というのは山と川によって形が決められた、非常に小さな都市です。
インフラ整備が恐ろしい加速を見せる中国にあり、四川を代表する一都市でありながらも、ここには地下鉄がありません。そして今後も持ちえないでしょう。また、田舎都市でさえもビルがまるでマンハッタンのような迫力を見せる中国にあり、ここには近代的なオフィスビルがほとんどありません。
一見そのように見える高層ビルは、みな政府機関だったり、住宅マンションだったりと、必要最低限のもの。とにかく広い街がずーっと向こうまで続く都市風景。ここにはそれもありません。
それらはみなすべて、山と川が各街各集落を分断しているこの地形に原因があります。
しかし実はこれこそが、宜賓の魅力のひとつ。それも、大きな魅力。
低くなだらかな山々が街のすぐそばにあり、近代的な発展に一足も二足も遅れたこの街には、古き良き昔ながらの生活が今もところどころに残っています。そして、それはまるで、もうずっと前に失くしてしまったと思っていた宝物を偶然みつけたかのような驚きと感動を、幾度も幾度も私に与えてくれるのです。ここに暮らしながら。
宜賓は白酒を生産する「酒都」
長江あり、山あり渓流あり。そんな宜賓には、もうひとつ別名があります。それは、「酒都」。
冒頭にも記した通り、宜賓の名を世に知らしめるのは白酒の王者、五粮液。
白酒といえば50度前後の強い蒸留酒で、日本人が中国の酒といってまず連想する紹興酒よりも、現代中国ではこちらが乾杯の主流です。
そんな中国を代表する白酒、それを代表するのが高級なことで有名な五粮液なのです。
宜賓はもともと酒の歴史が古い場所でしたが、五粮液のおかげで中国酒文化の聖地ともいえるような地位を獲得しました。中国広し、しかしこの国で酒都という呼び名を持つのは、紹興でも貴州でもなく、この宜賓だけです。
そんな宜賓市内には、もういたるところに「酒」の文字。こちらは市内にキャンパスを持つ大学の校舎デザインですが、みなさん酒の字がいったいどこにあるかわかりますか?実は、これ全部がそう。
また、酒の文字を配した通りも市内を縦横にのびています。
長江南岸には政府建物に向けてまっすぐと、酒都路が。そしてその先には酒都劇場。また岷江北岸に渡れば、酒聖路に五粮液路。この五粮液路の先には、巨大な五粮液工場がとてつもない存在感を放っています。
宜賓散策をしていれば酒の文字を目にしない日はありません。
白酒好きの私としてはこの上ない嬉しさですが、かつては数々の宴会にお招きを受けることが多かったものの、一人暮らしを始めてからはそんな機会もめっきりと減り。酒の字を目にしてはついついと、一人で安酒を飲む毎日が続いております。
最後に
このようにざっくりと宜賓紹介をさせていただきましたが、これではまだまだこの都市の「いい人」ぶりをお伝えしきれてはいないことでしょう。
古き良き時代の生活が今も残る、と申しましたが、実はそんな宜賓も現在猛スピードで開発が進められています。
私の暮らす場所は一面整地され、数十では済まないほどのマンションが建設途中。それはもうめくるめくスピードで、見る間見る間に姿を変えていく風景。かつては遅れた都市と揶揄されたようですが、今では四川第二第三の都市といわれた綿陽や自貢をとうに越したという声も聞きます。
まるでここに呼ばれたようだ、そう申せばあまりにも月並みな表現ですが、縁あっての宜賓生活でしょう。
かつてでも、いつかでもなく、ただ今この瞬間、この街の表情を見守りたい。そうしてそれをみなさまにわずかでもお伝えできればどんなに素晴らしいだろう、そんなふうに思いを巡らしながら、今日もまた滔々と流れる長江を眺めております。
2005年に中国初渡航、2010年より中国一人旅を始め、短期長期含めおよそ50回ほど渡航を繰り返し2019年8月に四川省宜賓市移住。 転機は2018年夏、8年間勤めた会社を退職し叶えた、38日間中国周遊旅行。ビザのトラブルでしばらく四川省に滞在することになり、しかしその結果四川に恋をする。それまでは中国どの地域にも思いは平等だったが、もう四川以外考えられずに海を渡り、現在に至る。
宜賓のおすすめグルメはこちら
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中川正道、1978年島根県生まれ。四川師範大学にて留学。四年間四川省に滞在し、四川料理の魅力にはまる。2012年にドイツへ移住。0からWEBデザインを勉強し、フリーのデザイナーとしてドイツで起業。2017年に日本へ帰国。「人生の時を色どる体験をつくる」をテーマに妻の中川チカと時色 TOKiiRO 株式会社を設立。
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