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早いもので新年を迎え一か月が過ぎ、もう春節の頃となりました
私はというと1月の半ばに職場の大学が一学期を終え、冬休みに。不安定なコロナ状況にどうなることかと思われましたが、学生もみな無事に故郷で年を迎えることが叶ったようです。学生は四川各地、または四川省外の実家へ、私は少し四川北部を巡る機会があり、宜賓をしばらく離れることになりました。
現在は成都に戻りこちらで春節を過ごしていますが、今回はこちら成都より、四川北部で出会い未だに忘れられない美味しい思い出をご紹介いたします。
剣門豆腐は、まるで豆腐の桃源郷
四川料理といえば、誰もが知る美食。しかしそのほとんどが、四川中央に位置する成都周辺を含め南部のものだということをご存じでしょうか。
火鍋、麻婆豆腐、回鍋肉、青椒肉絲、兔料理、焼烤……、もちろん四川各地だけでなく、中国各地、日本でだってこれらに出会えますが、しかし美味しくて有名な四川料理の数々、その本場は四川南部にあることが多いのです。楽山、自貢、宜賓……、やっぱり美食といったらこの辺りでしょうか。今回私が北部を訪れることを成都人の友人に伝えると、
「えー!美味しいもの何にもないじゃん!」
とこんなふう。いえいえ決して美食巡りが目的ではなかったのですが……。
しかしそんな言われようの四川北部ですが、そうは言っても美味しいものが何もないわけではありません。今回の旅で出会った未だに恋しい味、それはもうすぐ甘粛省や陝西省という北の端、広元市剣閣県剣門関。そこで有名な剣門豆腐(ジエンメントウフ)は、まるで豆腐の桃源郷でした。
中川さんも2016年にこの剣門関を旅し、その旅の記録を過去記事に残していらっしゃいます。
三国志の舞台、天然の要塞「剣門関」
剣門関といえば古来度々戦いの舞台となり、近い歴史でいえば第一次、第二次国共内戦の激戦地でもありました。とはいえ日本人にとってこの地を訪れる魅力となるのは、なんといっても三国志でしょう。
姜維が死守し、でありながら劉禅が下した投降を受け入れざるを得なかった、そんな三国志終盤において要となった地です。景区内部には移転された姜維の墓や三国志エピソードを紹介するブロンズ像などの展示もあり、三国志好きならば一度は訪れる価値があります。
訪れてみれば確かに険しい岩肌。これは天然の要塞となったはずだと納得する、圧巻の風景がそこにはありました。過去記事で中川さんがご紹介していた「松枝を削った肩たたき棒」に出会うことはできませんでしたが、代わりにあったのは諸葛亮をイメージした自動占い機(電子マネー対応)。
さすが変化の速い中国ですが、山中で農作物や不思議なものを売っているような昔ながらの光景が失われていくのは寂しいものがあります。
剣門はとにかく豆腐商品がたくさんある
剣門関景区は非常に広く、入場口には北門と南門があります。そのそれぞれに、ずらーっと並んだ豆腐料理のお店と土産物屋。実は私、剣門関は二度目。三年前には北門で豆腐料理をいただいたので今度は、というわけではないのですが単にバスを降り忘れて南門でお店を探すことになりました。
どのお店で食事をするか迷っていたところに偶然覗いたのは、豆腐関連のお土産屋さん。店主の女性が感じよく出迎えてくれました。
「コロナが落ち着いてからようやく秋に客足が戻って来たかと思えば、12月にまた成都で感染者が出てね。お客さんが全く来ない毎日だったよ」
春を迎え夏を迎え、一見以前と同じような毎日が戻った感覚の四川でしたが、観光地というのは私が思っている以上の打撃を受けていたようです。この日もお客さんは少なく、しかしかといって押し売りをしてこない店主に、私は好感をもちました。
ここで買うべきお土産はやっぱり豆腐干(トウフーガン)でしょう。それからはまると病みつきになる中国調味料、豆腐乳。また買ったまま未だ味見していないのは、鍋巴豆腐干(グオパートウフーガン)なる袋。なんだかコンニャクチップスに似た(見た目のみ)イメージです。
安くしてくれるのでついつい、ほいほいと商品を選んでいき、その中で気になったのは米豆腐(ミートウフ)でした。密封されている薄肌色の固形物、まず浮かんだイメージはういろうでしたが、まさかスイーツではあるまい。そう思い訊いてみると、「米で作った豆腐」とのこと。
やっぱりしっくり来ないのでさらに訊いてみると、「火鍋なんかに入れるのがいいよ」とのこと。こちらも、買ったまま未だに試していない楽しみなお土産です。
黄忠豆腐で食べる剣門豆腐
大量に買ったお土産は宅配便にし、お土産屋さん近くにある豆腐料理店に入ってみました。大きな店構えで、入り口には老舗であることや表彰を受けたことを示す金牌がたくさん掛けられています。
メニューを開けば、めまい。一体いくつあるのだろうという大量の豆腐料理が、ページをめくってもまたその次に続きます。その筆頭にあるのが、豆腐宴。いわゆる豆腐料理のフルコースですが、これもまた、姜維豆腐宴だとか張飛豆腐宴だとか様々。私もぜひ!といきたいところですが、豆腐料理が10も20もあるいはそれ以上も出てくるコースなので、さすがに一人では……。
そこで三品までは頑張ってみることにしました。まず一品目はその名も「剣門豆腐(ジエンメントウフ)」。
料理に使われているその豆腐名が料理名になっているのですから、当然気になります。一口食べてみれば、安心する美味しさ。脂っこく辛くくせのあるものが多い宜賓の豆腐料理とは対照的に、さっぱりしながらも温かく胃が休まるあんかけ豆腐でした。使われているキクラゲはまた、剣門の特産です。
これは日本人にも受けがいいのでは、そう確信しながら進む箸。日本にもありそうな風味ですが、しかししっかり弾力があり濃厚で食べ応えのある剣門豆腐はやはりこちらならではです。
続いて選んだのは「草船借箭(ツァオチュアンジエジエン)」、ユニークな名前に惹かれて選びました。
これは説明する必要もないでしょう。赤壁の戦いで有名なエピソードがそのまま料理名になったものです。「10万本の矢を用意せよ」と周瑜から命じられ、諸葛亮が藁船で魏軍を騙し宣言の通り三日で用意したという逸話。
お皿が運ばれてきて、藁船をイメージしたお皿に納得しました。船底に沈んでいる豆腐にかかるのは大量の唐辛子。ちょっとびっくりしますが、本場で食べる唐辛子というのは痛みよりも香りが勝った辛みのように感じます。これだけ大量の唐辛子でありながら、濃厚な豆腐の風味が主役となった見事な一品でした。
最後の一品は、「懐胎豆腐(フアイタイトウフ)」です。
実は同名の豆腐料理は他の地でも見るのですが、店員におすすめを訊ねたところ、大量の料理の中この料理をまっさきに勧めてきたので、となればこれをいただかないわけにはいきません。しかしこれが絶品だった。三皿を一人で食べるのはなかなかきつかったのですが、それでも完食してしまうほど美味でした。
しっかりした食感の豆腐が、日本でいう揚げ出し豆腐のように仕上がっています。餡は甘辛で豆腐の表面によく絡み、一口かぶりついてみれば中からはそぼろ肉が現れました。懐胎とは字の通り、子供がおなかの中にいる状態です。豆腐がおなか、そぼろ肉が子供というわけです。
最後に
私の暮らす宜賓も豆腐料理がなかなか有名な地域です。
しかし四川といっても広いもの。北の剣門と南の宜賓とでは、同じ豆腐料理といえどもその表情はまったく違うものでした。そしてまたおもしろいのが、四川北部ではなかなか宜賓の豆腐料理には出会えないし、また宜賓でも剣門の豆腐料理には出会えないということです。
メニューを開けばめまいを起こすほどの料理の数々、あの美しい豆腐料理たちを再び味わうには、またあそこまで足を運ばなければなりません。
次はいつになるでしょうか。今から待ちきれないほど、楽しみです。
店舗情報
店名:黄忠豆腐
住所:広元市剣閣県剣門関鎮新街翠屏路、剣門関景区南門入口より300m南
http://www.dianping.com/shop/G2YseeuoyxMaRlDY
追記:2016年に中川が行ったお店「師府」も紹介!
2016年「四川料理の達人」として四川省政府から招待を受け取材したお店です
店舗情報
店名:師府
住所:広元市剣閣県下寺鎮温泉小鎮
http://www.dianping.com/shop/G2TNoupUr4mfK9tq
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中川正道、1978年島根県生まれ。四川師範大学にて留学。四年間四川省に滞在し、四川料理の魅力にはまる。2012年にドイツへ移住。0からWEBデザインを勉強し、フリーのデザイナーとしてドイツで起業。2017年に日本へ帰国。「人生の時を色どる体験をつくる」をテーマに妻の中川チカと時色 TOKiiRO 株式会社を設立。
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