宜賓の路地裏グルメ「点点香」！麻辣燙でも冒菜でもない四川の隠れ名物を食べる

宜賓名物の点点香とは？

気が早いといえばその通りですが、そろそろ少しずつ年の瀬を意識し始める頃となりました。こちら四川南部は晴れた日こそ暖かなものの、それでも陽の見えない日にはだいぶ冷え込むようになり、何ともなしに温かいものが口恋しくなります。

火鍋もいいし、串串香（チュワンチュワンシアン）もいいし、でももっと手軽に食べるとするなら冒菜（マオツァイ）や麻辣燙（マーラータン）なんかもいい。様々な料理がある中でもとりわけ身近に存在するかれらを思い浮かべ迷いながら、連想のすえ、ふと思い出したのは点点香（ディエンディエンシアン）でした。

点点香という名は成都ではほとんど目にすることはありません。どうやら宜賓グルメのようではありますが、しかし店舗は旧市街の路地裏にこぢんまりと隠れたものばかりで、飲食店が集まる大通りや新市街などではあまり見かけることはありません。

ではいったいどんなグルメなのかといいますとこれは串料理のようで、店を覗いてみれば串串香とも冷鍋串串（ロングオチュワンチュワン）とも思えるような様子、しかしそれらとの違いはよくわからない。そういうわけで私にとっては長らく謎に包まれたご当地グルメだったのです。

串串香

そもそも、四川は他省に比べ串料理が多いように思います。辛味の串焼き、焼烤（シャオカオ）。同じく辛味の串フライ、油炸串串（ヨウジャーチュワンチュワン）。それから具材を串で楽しむ火鍋、串串香。

串串香の火鍋スープは四川火鍋とそう変わりませんが、串で煮るか皿から煮るかの違いは大きく、また具材のラインナップにもだいぶ違いがあり、そこには明確な区別があります。串串香が食べたい時には、あくまで四川火鍋ではなく、それが食べたいものなのです。

麻辣燙(マーラータン)の始まりは楽山麻辣燙から

楽山麻辣燙

串串香といえば、楽山麻辣燙も忘れてはなりません。

日本でも知名度がぐっと上がった麻辣燙は今でこそお碗でいただくそれですが、もともとは楽山市牛華鎮で生まれた鍋料理でした。それが全国に広まり、姿を変え、今ではそちらの方が有名になり楽山麻辣燙の方は「楽山」と冠をつけなければわからないまでに立場が逆転してしまったのです。

その楽山麻辣燙はいわゆる麻辣燙とは全く異なり、串串香と同様に串でいただく麻辣火鍋です。ならば両者にどのような違いがあるのかといえば、実はほぼ似たようなもの。聞くところによれば、楽山麻辣燙の方は串串香に比べスープがややさっぱりしているのだそうですが……。いわれてみれば、そのような気がしないでもありません。

鉢鉢鶏

そうそう、楽山といえばあの鉢鉢鶏（ボーボージー）も串料理でした。

鶏の字を抱く鉢鉢鶏とはいうものの、先述しましたかれらと同様に具材は豊富です。しかし異なるのは温かくないこと。すでに湯通しし加熱された串は冷蔵庫にぎっしりと並べられ、甘辛い紅油ダレや爽やかな辛味をもつ藤椒ダレにお好みで選んだ串束をそのまま頭から投じ、いただきます。

冷沾沾

同様に加熱済みの串をタレにつけて味わうのは、綿陽市江油のおやつ、冷沾沾（ロンジャンジャン）でしょう。

こちらは静岡おでんを彷彿とさせるような駄菓子感覚で、ふらっと立ち寄り、ちょっと食べて、さっと立ち去る、そんなおやつです。しかも静岡おでんのように、基本的には相席で楽しむもの。大量の具材で埋め尽くされたテーブルを知らない者同士で囲み、一緒になって串に手を伸ばすのです。鉢鉢鶏と同じように加熱済みの串を手に取り紅油ダレや胡麻ダレにつけていただく、つまり冷めたグルメですが、こちらの方には具材を滷味で煮たものと味付けなしで煮たものとがあります。また串も爪楊枝を用い、かわいらしい一口サイズが楽しいものです。

だいぶ脱線してしまいましたが、もとはといえば点点香のお話でした。このように四川人は串料理が相当に好きなようで、ならば宜賓市内にこのようなご当地串グルメが隠れているのにも納得できましょう。

せっかく思い出したことですから、これを機に点点香の謎を確かめに行ってみることにしました。

路地裏で点点香を食べる

友人と向かったのは旧市街の賑わいに隠れた路地裏でした。目指したのはかねてより名を聞いていた有名店、転角点点香です。「転角」とは言い得て妙、確かにやや不安を覚えるような狭い路地裏を曲がった先、知らなければとても見つけられないような場所にありました。

狭い隙間に簡易テーブルが並んでいます。私たちは席を確認し、まずは具材選びに冷蔵庫へ。

先述した串料理たちの具材は、それぞれわずかな個性の違いを見せながらもそのラインナップにおおよその共通点があります。肉、内臓類に至っては多岐に亘り、そこに各種野菜、キノコ、豆腐、湯葉、ウズラ卵、練り物、ソーセージ、餅、春雨やインスタント麺と、挙げれば枚挙にいとまがありません。

冷蔵庫から好きなだけ串を取り、籠に重ねていきます。その中でも私が目をつけたのは、四川の串グルメとしては珍しい豚タン。そして友人が喜んだのは冬の楽しみ、エンドウの茎葉でした。

串の価格はもっとも安いもので0.5元（約10円）、もっとも高いものでも4.5元（約90円）。ですから、価格など考えずに数すら数えずに、ただ食欲の向くままに串を鷲づかみしていく、それが四川の串料理を楽しむ秘訣といえるでしょう。

そんなものですから、実は私たち自身も自分たちがいったい何をどれだけ取ったのか、食べる頃にはもうわかりません。

串籠を厨房に渡ししばらくして、大きなお碗が串の束とともに運ばれてきました。具材は全て串から外され、お碗一つに一緒くた。明瞭会計のためか調理の証拠か、どちらであれ、外された串もこのように残してもらえればたくさん選んだ甲斐があるというものです。

しかしそれはともかくとして、点点香の正体は今それを目の前にしてもなお、よくわからないまま。とりあえず、串串香や楽山麻辣燙のような火鍋ダレは用いないようです。それにこの点点香は、それらのようにぐつぐつと沸き立つ鍋でいただくのではなく、冷鍋串串のように火から外して冷めゆく状態のものを食べるよう。

それでは、いただいてみましょう。

すると、未だ熱いままの具材に絡むスープはそもそも火鍋系のかれらとは全く異なり、鉢鉢鶏を思い起こすような甘味を帯びた辛さをもつ紅油スープでした。しかし甘味がやや強めの鉢鉢鶏とはやはり全く異なり、かなり辛い。それに何より、加熱した具材をタレに投ずる鉢鉢鶏とスープで煮る点点香は違うものです。

「鉢鉢鶏とはやっぱり違うねぇ……。」

友人と話し合います。それならば冷鍋串串とでは、と考えてみても、それを煮るスープがそもそも違いました。それに冷鍋串串は串のままボウルに入れられて出てきますし、さらにそれを唐辛子粉や大蒜などの調味料につけていただくことが多い点も異なります。

「それなら、冒菜とか麻辣燙に近いのかなぁ……。」

確かに、白米に合わせておかずとして食べることができる点は、姿からして冒菜によく似ています。

「いやいや、そもそもスープが違うし。」

結局このように友人と話し合った結果、先述した類似料理の中では強いていうならば冒菜がもっとも近いのではないか、という結論に至りました。

冒菜

冒菜とは、麻辣燙のように具材を自由に選びお好みのスープで煮ていただく四川のカスタマイズ式フードです。

とはいえ、この点点香と比べますとどうやら似て非なるもの。「みなで食べるのが火鍋、一人で食べるのが冒菜」、冒菜はこのようにいわれており、スープは種類ありながら典型的なスタイルは牛脂を用いた火鍋型スープや牛脂を用いない麻辣スープです。串の有無を抜きにしてもまずスープが異なりますし、点点香には冒菜の別名ともいえる「一人で食べる火鍋」という言葉はなんだかそぐわない気もします。

その存在を知りながら、なぜこれまで放っておいたのでしょうか。遠目に得た思い込みにより、所詮は数ある串料理のいずれかと同じようなものに違いないと、侮っておりました。甘味をわずかに伴ったスープはしかし相当に辛く、そのバランスはここ四川においてもありそうでない独特な塩梅です。

「四川料理は多彩といいながらも、結局はどれも似たものではないか」

このような言葉をよく目にします。確かにそれは否めませんが、けれどもこの点点香を巡り比べてみましたように、串料理にしても煮込み料理にしても似ているようで実はそれなりに差異があるのです。

その名を知ってから数年が過ぎながらもご縁のなかったここ転角点点香、創業は1995年だそうです。30年といえば、中国では老舗と呼んでよい長さでしょう。そして「転角」、その狭い曲がり角にはまた、人情が匂い立つような小さな点点香の店舗がもうひとつ。見慣れた街並みがどことなく、これまでとは違って見えました。

～店舗情報～

転角点点香（ジュワンジアオディエンディエンシアン）

四川省宜賓市翠屏区明倫堂239号

営業時間：10時～21時